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第1話 四方院家を滅ぼす者

Auteur: スナオ
last update Dernière mise à jour: 2025-08-20 05:48:12

 ナイフのようにぴりぴりとした空気をまとう桜夜と、にかにかと笑う玄武はただただ見つめあう。腹の探り合いでは老練な玄武に桜夜が勝てるはずも無かった。

「娘が生まれれば、お主と娘……あずさを許嫁とする。これは四方院家としての決定じゃ」

 それは桜夜が四方院家の犬であれば、褒美に愛した女をくれてやるというものだった。しかもあずさは今度は次期宗主として名高く、桜夜が兄のように慕う男の娘になる。その婚姻は四方院にとっても、桜夜にとっても立場を盤石にするものだろう。しかし気に入らなかった。あずさを道具として扱う玄武のやり方が。別に自分はどうなってもいいが、四方院を嫌っていたあずさを四方院に転生させたことだけは許せなかった。

 桜夜の怒りは憎しみとなり、殺意へと変化していく。それは師から禁じられた感情だった。そんな桜夜をさらに刺激するように、鷹司が口を開く

「良かったじゃないか。四方院家と敵対して娘を奪う必要がなくなって」

 桜夜は真顔のまま、鷹司に顔を向ける。そして皮肉な笑みを浮かべる。

「お言葉ですが鷹司公。四方院家と敵対する内外の組織の攻撃を水際で防いでいるのは私です。イギリスのリチャード陛下、神原家、宵宮家を後ろ盾に四方院家と戦い勝つことなぞ造作もないことですよ」

 その言葉に、今度は鷹司の顔が怒りにゆがんだ。

「四方院家相談役は四方院家を護る者だ。それが四方院家を滅ぼす方法を考えているなど許されることではないぞ」

「いいえ、鷹司公。相談役は四方院家を監視し滅ぼす者です。四方院家が誤った道を行かないよう破壊することも務めなのです。あなたが知らないはずありませんよね? 先代相談役殿」

 桜夜の皮肉たっぷりの言葉に鷹司は思い切り立ち上がり、拳を握った。···································

「表に出ろ。長年の因縁に今こそ終止符を打ってやる」

「いいでしょう。いずれは決着をつけねばと……」

「まてまてまて!」

 桜夜が殺意をむき出して立ち上がろうとするのを玄武が慌てて止めに入った。

「まず先代鷹司よ、桜夜の言っていることは正しい。相談役は戦ってでも四方院家を正さなければならないときがある。だがの桜夜、具体的なプランを話されるのはこの老骨の心臓に悪い。控えてくれい。最後に今日は祝いの席だ。2人とも座って、飲もうではないか」

 玄武の執り
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